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卵巣がん患者さんの抗血小板薬による治療の可能性も

血小板数の増加が卵巣がん増殖の促進と生存期間の短縮に関連していることが論文報告されました(New England Journal of Medicine(2012; 366: 610-618)。

卵巣がん患者さんでしばしば血小板数が増加することは,かなり前から知られていました。血小板は腫瘍に増殖因子を供給することから,腫瘍の燃料貯蔵庫として機能している可能性があることが示唆されています。血小板は血中だけでなく腫瘍の微小環境や腫瘍床,腹水中にも存在しています。

今回の国際研究では,血小板が増加する機序が明らかになったといいます。これによって,抗血小板薬を有効ながん治療薬として現行の治療法に加える可能性も示唆しています。大腸がん診断後のアスピリン常用が生命予後を改善することがすでに論文発表されているだけに慢性炎症を抑えることが間接的に血小板の凝集を防ぐ効果ももたらしている可能性もあります。また卵巣がんは早期発見が難しいガンですが、血小板の動きを見ることで予測したり、進行の度合いを測れるようになるかも知れません。

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→今回,卵巣がん患者の臨床データから得られた情報を,モデルマウスを用いた実験と臨床試験により検証。その結果,卵巣がんが炎症性サイトカインのインターロイキン(IL)-6を産生することで,血小板産生調節ホルモンであるトロンボポエチン(TPO)の肝臓での産生が惹起され,それにより血中の血小板数が著明に上昇し,腫瘍増殖を刺激するという悪循環に陥いることが分かった。

卵巣がん患者150例を対象に,血中で巨核球産生を調節している10個の因子の血中濃度を分析した。その結果,この患者群でも31%が血小板増加症で,同症患者では,IL-6とTPOの血中濃度の実質的な上昇が認められた。卵巣がん患者群310例における別の解析結果では,IL-6濃度上昇(10pg/mL超)が無進行生存率の低下とも関連していた。

血小板数増加におけるTPOとIL-6の機能的役割を理解するために,卵巣がんのモデルマウスに対し,低分子干渉RNA(siRNA)を用いてTPOとIL-6をコードする遺伝子のいずれか,または両者をサイレンシングした。その結果,どのマウスでも,血小板数は急速に低下したが,IL-6とTPOの両者をサイレンシングしたマウスでは,血小板増加症が完全に解消された。

さらに,標的としてのIL-6の可能性について検討するために,2系統の卵巣がんマウスに抗IL-6抗体であるsiltuximabあるいはパクリタキセルの単剤投与,または併用による化学療法を施行した。その結果,3種類いずれの治療でも血小板数と腫瘍負荷は低下した。最も有効性が高かったのは併用療法で,腫瘍増殖が90%抑制された。

抗血小板抗体により治療したマウスでは,無治療マウスに比べて循環血中の血小板数と平均腫瘍径がともに半減し,腫瘍細胞の増殖が44%抑制され,腫瘍血管密度が51%低下した。


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