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卵巣がんの抗がん剤治療2

術後のドーズ・デンス治療

卵巣がんは、女性のがんの中では乳がんと同様に年々増加傾向にあります。上皮性卵巣がん(以下卵巣がんと省略)の日本での罹患数は7418人(2002年)、死亡数は4435人(06年)であり、約60%の高い死亡率です。

卵巣がんは化学療法に感受性の高いがんとして知られていますが、大量化学療法や1回の投与量を増やすdose-intensive therapy(強化化学療法)が検討された時代もあったが、これらの試験結果すべてで目覚ましい効果は得られませんでした。

現在、乳がんで普及しているドーズ・デンス化学療法を卵巣がんで検証する動きが世界中で活発なものになっています。

Dose-dense(ドーズ・デンス)化学療法とは、抗がん剤の投与量は増やさずに、投与間隔を縮めることにより、抗腫瘍効果を高めようとする理論背景に基づきます。

腫瘍細胞の増殖は、腫瘍量が少ないときには速く増殖が進み、腫瘍量が多くなると栄養を補給する血液量や酸素が少なくなるため、増殖が遅くなるというGompertzian(ゴンパーチアン)の増殖モデルを基に、化学療法による腫瘍細胞の減少のモデル(ノートン・サイモンのモデル)を提唱されました。

ノートン・サイモンのモデルとは、化学療法が奏効し、腫瘍の大きさが小さくなるにつれて治療効果は高くなりますが、治療後のreboundで腫瘍細胞の増殖速度も速くなります。

モデルでは、8回の化学療法後、腫瘍細胞は1万個に減少しますが、腫瘍の増殖速度は1000倍となるといいます。ノートン・サイモンのモデルは、地固め療法、術後化学療法や逐次化学療法(sequentialchemotherapy)の理論的背景となり、その理論の正当性が証明されています。

ドーズ・デンス化学療法はノートン・サイモンのモデルを基に提唱され、乳がんの術後化学療法、転移性乳がんの化学療法で実証されています。ドーズ・デンス化学療法として、weekly paclitaxelは有名です。

乳がんに応用されているドーズ・デンス化学療法を卵巣がんでも検証する目的で、従来の3週間ごとのTC療法(パクリタキセル(PTX)+カルボプラチン(CBDCA)併用、ともに3週ごと1回投与)をコントロール群として、PTXの投与間隔を3週間から1週間に狭めたドース・デンス化学療法の有効性を検討するランダム化オープン比較試験NOVEL(New Ovarian Elaborate trial:JGOG3016)が日本で計画されました。

その結果、ドース・デンス化学療法は、従来の抗がん剤治療法より無増悪生存期間、3年生存率で有意差が出たと報告されています。この結果を受けて、他国でも追試試験が行われる予定のようです。

統計学的な有意差といっても、無増悪生存期間:28カ月対17カ月(中央値)、3年生存率72.1%対65.1%です。この生存期間延長が、血液異常の副作用(貧血、白血球減少)と引き換えですから、個々の卵巣がん患者さんにとってどれだけ意味があるかは現場の判断によるでしょう。

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→この試験は、特定非営利活動法人婦人科悪性腫瘍化学療法研究機構(JGOG)の主導で実施された。同試験の対象は、20歳以上の組織学的または細胞学的に確認されたStageU〜W期の卵巣がんおよび原発性腹膜がん、卵管がん患者637例。03年4月〜05年12月に、日本全国85のJGOG認定施設から登録された。

治療は、(1)標準治療のPTX+CBDCAの3週1回投与群(TC療法群:320例)と(2)PTX週1回+CBDCA 3週1回投与群〔ドーズ・デンスTC(dd-TC)療法群:317例〕にランダムに割り付けた。PTXの投与量は、dd-TC療法群で80mg/u(体表面積)、TC療法群で1回180mg/u、CBDCAの投与量は両群ともに血液濃度曲線下面積(AUC)6mg/mL/分とし、各群とも6〜9サイクルの治療を行った。主要評価項目は無増悪生存期間(PFS)、副次評価項目は全生存期間(OS)、奏効率、有害事象、QOLであった。有効性の解析は、TC療法群319例、dd-TC療法群312例、安全性解析は、各群314例、312例で行った。両群間の患者背景に大きな差は認められなかった。

その結果、dd-TC療法群では、TC療法群に比べて無増悪生存期間(PFS)が有意に延長した〔28カ月対17カ月(中央値)、ハザード比0.71、95%信頼区間(CI)0.58-0.88、P=0.0015〕。3年生存率はdd-TC療法群でTC療法群に比べて有意に高かった(72.1%対 65.1%、HR 0.75、CI 0.57-0.98、P=0.03)。

早期の治療中止例は、dd-TC療法群でTC療法群に比べて多かった(165例対117例)。dd-TC療法群で血液毒性による中止症例が多かった(113例対69例)。最も頻度が高い有害事象は、好中球減少症〔dd-TC療法群92%(286/312例)対TC療法群88%(276/314例)〕。グレード3および4の貧血発生率は、dd-TC療法群で有意に高かった(69%対44%、P<0.0001)。神経毒性は両群間で同等であった。


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